アーカイブ 2007年 2月



無尿 優先順位 4

2007年 2月 28日

S先生が、病棟から立ち去って、30分後。

患者さんは、依然として無尿である。

明日の朝までに何とかしなくては、残された時間は少ない。

泌尿器科のオンコールを呼んでみるか?

いや、全く知らぬ名前やし、また、腎不全の講義でもされたら、困るし。

そこへ、今度こそ救世主が現れた。

比較的、遊び人で通っている、ある内科の講師が、突然、病棟に現れた。

「どうしたの、こんな遅く、当直?」

と後ろから声をかけてきた。

私は、今日の、ここまでの経緯を話した。

「S先生は、ユニークだね。

いい奴なんだけどね。ちょっと、ピントが外れているよね。

ボクは、ピンとをはずさないよ。

まずね、尿道に管を入れてみようか?」

「あい。」

それから、30分、尿道にバルーンを入れて、それでも出なくて、

中心静脈圧を測定して

腹部に超音波をして、放射線科を呼んで、CTを取って。

泌尿器科を呼んでと、この講師の先生の指示の元に、着実に

診療は進んでいったのでした。

人間、遊び人と言われるぐらいのほうが、失礼ながら使えると実感した一日でした。

なぜ、尿が出ないのか?

癌が、尿管を巻き込んで閉塞状態になっていたのです。

翌日、泌尿器科の先生のもと、ステントが挿入され事なきをえたのです。


無尿 優先順位 3

2007年 2月 27日

そして、その夜。

腎不全のS先生による講義が、やっと午後11時過ぎに終了した。

ここで、何か、一発、患者さんを、いや私を救う道を、授けてくれるにちがいない。

しかし、次の瞬間に、その期待は、ものの見事に裏切られた。

S先生は、立ち上がると。

「では、先生、以上でございます。

ここまでの知識を踏まえて、患者さんが、いかなる状態に置かれているかを

考え、検査計画を立てる事をお勧めいたします。

お疲れ様でした。

私も当直で、明日の朝まで、院内におりますので、何かありましたら

御連絡ください。

先生も、お疲れのようですから、睡眠を取られたら、いかがでしょうか?

では、おやすみなさい。」

S先生を恨む気持ちにはなれなかった。

私が、人選を誤っただけなのだ。

そう、私の患者さんは、以前、無尿。

そして私は、無能。


無尿 優先順位 2

2007年 2月 26日

昨日の続き

1時間半の後,S先生は,病棟にやってきてくれた。

やはり,尊敬できる先生だった。

しかし,私が想像する以上に良い先生であった。

そう、それが私の誤算だった。

なぜ,S先生は一時間半の時間を要したのか?

S先生の手には,腎臓内科の本と,コピーの束であった.

「先生,お待たせしました。」

そう,すでに,時は夜9時40分,患者さんの尿は依然として出ていない。

S先生は円卓に座っている私の隣に座ると,コピーしたプリントを渡してくれた.

ここからが悲劇だった.

「乏尿といいますか,無尿でございますね,今回の場合は.

 さて,こういった場合に何が考えられるかと言いまうとですね.

 覚えてらっしゃいますか?私の授業を.」

「座ってはいたのですが,———-.

そこから,一時間,腎不全の講義がマンツーマンでスタートした.

「ヒラノ先生,こういった場合,考え方として3つあります.

腎性(腎臓自体に問題がある場合),腎前性(腎臓の前に問題がある場合),腎後性(腎臓の後に問題がある場合)の3パターンがあります.

御理解してますよね.

プリーズ リピート アフター ミー」

「ジンセイ,ジンゼンセイ,ジンゴセイ」

「ワン、モア、タイム。」

この調子で、午後11時まで、延々と、この授業は続いていった。

最後には、何か実践的な事をしてくれるに違いないと信じて私は、席に座っていた。

そう、これは嫌がらせではない。

あまりに、親切な先生なのであった。