S先生が、病棟から立ち去って、30分後。
患者さんは、依然として無尿である。
明日の朝までに何とかしなくては、残された時間は少ない。
泌尿器科のオンコールを呼んでみるか?
いや、全く知らぬ名前やし、また、腎不全の講義でもされたら、困るし。
そこへ、今度こそ救世主が現れた。
比較的、遊び人で通っている、ある内科の講師が、突然、病棟に現れた。
「どうしたの、こんな遅く、当直?」
と後ろから声をかけてきた。
私は、今日の、ここまでの経緯を話した。
「S先生は、ユニークだね。
いい奴なんだけどね。ちょっと、ピントが外れているよね。
ボクは、ピンとをはずさないよ。
まずね、尿道に管を入れてみようか?」
「あい。」
それから、30分、尿道にバルーンを入れて、それでも出なくて、
中心静脈圧を測定して
腹部に超音波をして、放射線科を呼んで、CTを取って。
泌尿器科を呼んでと、この講師の先生の指示の元に、着実に
診療は進んでいったのでした。
人間、遊び人と言われるぐらいのほうが、失礼ながら使えると実感した一日でした。
なぜ、尿が出ないのか?
癌が、尿管を巻き込んで閉塞状態になっていたのです。
翌日、泌尿器科の先生のもと、ステントが挿入され事なきをえたのです。