患者さんもオオラカだった。

研修医も2年目に入った春に、県西総合病院という田舎の病院に、たった3ヶ月ほどだが在籍させていただいた。

初めて、大学病院の外に出たという開放感と当然、不安があった。

ここでの経験は、今の自分には貴重なものとなっている。

この土地は、岩瀬、今は桜川市と名称が変更されているが、のどかな所だった。

駐車場の中に、築30年以上のあばら家が立っていて、

そこに、住み込んでいた。

初日、透析室に集合と言われ、出かけると、透析の患者さんが、次々と部屋に現れベッドの横たわっていく。

私は、何をするのか?

透析患者さんの、針刺しを50人ほど行うのだという。

「すみません、未経験です。」と当時の婦長殿に話すと、指導してくれた。

あれだけ、太く怒張した血管だから、刺すのは容易いと思ったら、大間違いだった。

何度も使われた血管は、硬く、針が刺さらない、やっと刺さったと思い、ラインに繋ごうと思い、目をそらした瞬間、押さえ方がまずく、血が噴出していった。

血は、私の頭上を超え、きれいにアーチを描いて向こう側の壁に向かって飛んでいった。

「おお、ハイプレッシャー。」と心の中で叫んだ。

動揺は隠せなかった。

「すみません。すみません。」と謝りながら、次々と針刺しを行った。

正直、私、不器用な男です。

というより、慣れるのに、ほかのみなさんより時間がかかります。

初日、透析室は修羅場になった。

そして、私は泣きたくなった。

ピーター アレンの名曲の詩が頭の中にリフレインされた。

Don’t cry out loud(あなたしか見えない)Anatasika

We don’t cry out loud
We keep it inside
We’ve learned how to hide our feelings

訳  もう、大人なんだから、

   大声を上げて泣いたりしちゃだめ。

   哀しみは、心の中に留めて、

   どうしたら、この感情を抑えられるか

   知っているはずだから。     

         邦訳 by 湯川れいこ じゃなくて PIRANO

以下 ドクピラB 参照

リンク: ドクピラ :: The Another Side: Don’t cry out loud あなたしか見えない.

血液のアーチ、床は血の海。

私も、肉体的に精神的に疲労した。

婦長殿もボロボロだった、しまった、エライノが来てしまったと思ったことだろう。

しかし、不思議と患者さんは、暴れなかった。

その日以来、透析室に行くのがトラウマになった。

実に居心地が悪かった。

急患が入れば、ここから救急室に出られることがわかった。

急患が入るのが待ち遠しかった。

「急患です。」とコールされると、

「ああ、しょうがないな。」と言い残して、ほっとしてここから出て行った。

そして、この病院の最終週。

何とか、無駄な血液を飛ばさず、針刺しができるようになっていた。

慣れれば大したもんじゃねえと気を抜くと、しかし、血液のアーチが飛びそうになったが。

そして、この患者さんは、俺苦手なんだよという患者さんの場面にきた。

何が苦手かって、刺しにくいし、一言も口を聞いてくれないんだもの。

きっと、俺のこと怒っているんだろうな。

いつも、サングラスをかけたまま、ベッドに横たわるので、

表情すら窺い知れない。

その日、消毒をし始めると、突然、ボソッと話し始めた。

「今週で終わりだよね。」

話した?手が思わず止まってしまった。

「3ヶ月して、慣れて、やっと任せられると思うようになったら

また、交代、来週はまた、新人が来て大騒ぎだね。

でも、この3ヶ月、新人を眺めているのも面白くてね。

また、戻って来てね。」

そう、患者さんもおおらかだった。

院長も、副院長も、看護師のみなさんも、おおらかだった。

私だけが卑屈になっていた。

いい時代だった。

ここの透析部長のI先生、奥様も、元腎臓内科医で、今は、ある地区の保険所長に就任されている。仕事柄、時々、お会いするが、旦那は、まり、私のことを話していないようだ。

助かった!




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